知的財産の保護及び整備を義務付けるための「TRIPS協定」
知的財産に関する既存の条約であるパリ条約やベルヌ条約の遵守を義務づけた上で、さらなる保護の強化を規定するための協定が「TRIPS協定」です。この協定は、加盟国の国内の制度について直接規律をするものであり、それまでの協定とはその性格が大きく異なります。
TRIPS協定とは

内国民待遇と最恵国待遇
TRIPS協定の意義においては、知的所有権の保護に関しては、自国民と外国人の差別を禁止する「内国民待遇」と、特定国に与えた権利はすべての加盟国に付与する「最恵国待遇」を基本原則としています。
輸入品に対する、国内原産の同種の産品に付与される待遇よりも不利な待遇にならないように定められているGATTの内国民待遇とは、一線を画したものになっています。

手続きの詳細は定まっていない
TRIPS協定は、EPA/FTAで公証義務の原則廃止、優先権証明書の翻訳文証明手続の簡素化などの規定を導入し、特許出願などを行う際の手続きを簡素化して負担を軽減することで、容易に権利が取得できるようにしています。
また、権利付与を迅速に行えるようにするために、日本国特許庁の特許審査結果を提出することで、相手国で実態審査を行わなくても特許取得、あるいは、早期審査ができるよう定め、知的財産保護の向上に努めています。
TRIPS協定の特徴保護対象と期間TRIPS協定における知的財産の保護対象と期間は以下の通りです。
- コンピューター・プログラム及び映画
権利者の許諾を得た公表の年の終わりから少なくとも50年 - レコードなどの録音物
固定又は実演が行われた年の終わりから少なくとも50年 - 商標
商標の最初の登録及び登録の更新の存続期間は、少なくとも7年(何回でも更新可) - 意匠
少なくとも10年 - 集積回路の回路配置
登録出願の日又は世界における最初の商業的利用の日から少なくとも10年 - 地理的表示
その品質により「産地」を特定できるような名称(地理的表示)が付いた加工食品などが対象加盟国は、品質基準を満たしていない・模倣品の流通を防止するための法的手段を確保し、保護する - 開示されていない情報の保護
・営業秘密、秘密であることにより商業的価値があることが対象
加盟国は、不正競争から守るため「開示されていない情報」を保護する
・政府機関に提出されるデータ
加盟国は、不公正な商業的使用から当該データを保護する
与えられる権利と例外TRIPS協定で定義される知的財産の保護として、特許権利者には次のような排他的権利が与えられています。
- 特許の対象が物である場合には、特許権者の承諾を得ていない第三者による当該物の生産,使用,販売の申出若しくは販売又はこれらを目的とする輸入を防止する権利(※)
- 特許の対象が方法である場合には、特許権者の承諾を得ていない第三者による当該方法の使用を防止し及び当該方法により少なくとも直接的に得られた物の使用,販売の申出若しくは販売又はこれらを目的とする輸入を防止する権利(※)
- 特許を譲渡し又は承継により移転する権利及び実施許諾契約を締結する権利(※)
但し、例外として「特許の通常の実施を不当に妨げず,かつ,特許権者の正当な利益を不当に害さないこと」※を条件に、加盟国は「第三者の正当な利益を考慮し,特許により与えられる排他的権利について限定的な例外を定める」※ことができます。
違法な商品の流通を阻止できるデザインやコンピューター・プログラムなどの発明品を利用したサービスや商品が急激に増加したことにより、世界的な規模で知的財産の保護が目的で定められたパリ協定やベニス条約を遵守し、保護を強化するためにできたのがTRIPS協定です。
日本の特許審査結果を他国へ提出することによって、他国での特許取得や特許審査が迅速に行われるなど、手続きの透明化、簡素化を図ることで、偽ブランド品の流通や、海賊版CDの違法販売などの防止することが可能となるのです。