Newsletter 2023年5月号

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ご挨拶
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初夏の風も爽やかな今日この頃、皆様にはお変わりなくお過ごしのことと存じます。

さて、今月号のニュースレターのトピックスですが、「知財ミックス戦略とその実例」「『それってパクリじゃないですか?』を特許事務所の視点で解説-先取り商標出願と炎上-」「知財研修のお困りごとはありませんか? 知財教育の重要性」についてです。

知財ミックス戦略とその実例

知財ミックス戦略とは、ある製品、サービスを複数の知的財産権等(特許、意匠、商標に限らず、広くノウハウ、データなども含む)を組み合わせて多角的に保護することをいいます。これらを組み合わせることによって相乗効果が生まれ、他社製品等との差異化を顕著にし、ひいては、自社製品等のブランド価値を一層高めることに繋がります。

例えば、スーパーでよく見かけるキッコーマンの醤油ボトルは、1つの商品をこれだけ複数の権利で保護しています。

  • キッコーマンの醤油ボトル

    写真引用元:キッコーマンHP(最終閲覧日:2023.5.19)
    キッコーマンHP

  • ・特許 技術を独占し、他社の参入障壁を築く ・意匠 美感を起こさせ、需要者(消費者)の購買意欲を高める、他社の模倣を防ぐ ・商標 ブランドの確立、業務上の信用が化体することで需要者(消費者)の購入を促進 ※ボトルは立体商標

次に、三菱電機の事例をご紹介します。同社は、特許庁が公表した2022年の特許、意匠、商標の登録件数で、いずれの分野においても上位10社に入っており、※1 特許だけでなく、意匠および商標出願にも積極的に取り組んでいます。

三菱電機では、デザインの⼒をブランの構築やイノベーションの創出に活用する手法を取り入れています。また、デザインを技術資産と同列に位置づけ、独立の組織として「デザイン総合研究所」を設置しています。同社の知財部門は、課題発掘や企画の段階から入り込み、製品開発や創作の元になっているコンセプトを把握し、そこから、顧客に新しい価値を提供するためにはどのような知財を取得すべきかを検討しています。※2

★技術×デザイン デザイン総合研究所から生まれたソリューションデザイン

車の次の動きを周囲に伝えるという新たなコンセプトから路面ライティングは生まれました。路面に光で図形を描き、その光の動きにより、周囲の車や歩行者等に注意を促します。
物やソフトウェアなどの技術面は特許権で保護、「映像装置付き自動車」を意匠にかかる物品として部分意匠、画像を含む意匠として保護しています。※2

映像装置付き自動車

写真引用元:「自動車向け「路面ライティング」コンセプトを提案」三菱電機株式会社ニュースリリース(2015年10月23日)
http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2015/pdf/1023.pdf

※1 特許庁「特許庁ステータスレポート2023」
https://www.jpo.go.jp/resources/report/statusreport/2023/document/index/all.pdf
※2  特許庁 "三菱電機株式会社" 「経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】」p112-117
https://www.jpo.go.jp/support/example/document/chizai_senryaku_2020/all.pdf

『それってパクリじゃないですか?』を特許事務所の視点で解説
-先取り商標出願と炎上-

現在放送中のドラマ『それってパクリじゃないですか?』(日本テレビ 毎週水曜日22時放送)が弁理士の間で話題になっています。弁護士が主役のドラマは数多くありますが、第1話から最終話まで弁理士が活躍するドラマは本作が初めてではないでしょうか。
 
本稿では、5月3日放送の第4話の終盤に起きた商標出願の炎上を考えます。第4話では、とあるインフルエンサーによってひそかなブームとなっていた縄文土器に描かれた模様から生まれた「ツキヨン」を自社のキャンペーンのキャラクターとして使用するため、主人公は商標出願の準備をしていました。しかし、出願の直前で、「「ツキヨン」はみんなのもの」と、商標権を取ることに疑問を感じ、出願を断念します。その一方で、ライバル会社は、先取り的に同じ商標を出願してしまいます。最終的には、ライバル会社の商標出願は、世間で話題になっているものを横取りした印象を与え、インターネット上で炎上を起こします。

ドラマの中だけでなく、商標出願の炎上事件は実際にしばしば起きています。最近の事例ですと、「PPAP」「ぴえん」「そだねー」「ゆっくり茶番劇」などが挙げられます。

ドラマのエピソードは、実際に起きた「アマビエ」事件とよく似ているので、元になっているのかもしれません。コロナ禍でブームになった江戸時代から伝わる妖怪の名前である「アマビエ」の名称をキャンペーンで使うことを検討していた広告会社が、同名称を商標出願したことで、炎上し、同社は、出願を取り下げました。しかし、実は、先の広告会社が同商標の最初の出願人ではなく、J-PlatPatで検索をすると、1番最初に「アマビエ」を出願したのは、お菓子会社でした。本願は拒絶査定がでているので、その内容を確認してみました。拒絶の理由は、商標法第3条第1項第6号(需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標)です。

<拒絶理由通知より抜粋:商願2020-040835>
(1)「「アマビエ」は、「江戸時代に肥後国(現在の熊本県)の海に現れて疫病を予言し、病気が流行した際には自身の姿を描き写して人々に見せるよう告げて姿を消したと伝えられている妖怪の名前であり、2020年の新型コロナウイルス感染拡大の終息祈願のために、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上にこれを描いた図などを投稿する人が続出するなどとして、話題となったもの」
(2) 「厚生労働省が、新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とする施策の一つとして、疫病を払うとされる妖怪『アマビエ』を描いた啓発用アイコンをホームページ上で公開(略)するなど、「アマビエ」の文字やこれを描いた図は広く一般に知られるようになるとともに、新型コロナウイルス感染拡大の終息祈願の象徴として広く使用されている」
(3) 「多数の業者によって「アマビエ」の文字やこれを描いた図が、商品に使用されている」
 よって、「本願商標は、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「新型コロナウイルス感染拡大の終息祈願の象徴」を表したものと認識するにとどまるというのが相当」
 
ドラマの中の「ツキヨン」も審査がされれば、「アマビエ」と同様に商標登録は認められないと予想します。 

商標登録は、先願主義が採用されていますが、他人が有名にしたものや、みんなが使用しているものを独占しようとするなどフェアではない印象を持たれる行為は、しばしば炎上を引き起します。特に記憶に新しいのは、「ゆっくり茶番劇」の炎上事件ではないでしょうか。 この事件は、インターネット上で共有のコンテンツとなっていた「ゆっくり茶番劇」をゲームやイラストの原作者とは無関係の第三者が商標出願(商願2021-114070)し、異議申立て期間(異議申立てができる期間は、登録公報発行日から2ヶ月以内)が経過したのちに、自身のサイト等で商標登録をした旨および当該商標等を使用する場合には、年間10万円の登録料が必要である旨を発表し、炎上しました。

結果的に、当該商標登録は、出願人が商標抹消申請を提出(受理)、また、関係者からは商標登録無効審判請求書が提出されました。(2023年5月19日時点で審決はまだでていません。)さらに、同関係者は、「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」「ゆっくり劇場」(商願2022-058346、商願2022-058347、商願2022-058348)の3つを標準文字商標として出願しました。いずれも拒絶理由通知が出ています。2023年5月18日時点で、拒絶理由に応答せず応答期間を経過しているので、このまま拒絶査定に至ると思われます。拒絶の理由は、(1)第3条第1項第3号(品質等表示)及び第4条第1項第16号(品質等誤認)、(2)第3条第1項第6号(第1号から第5号までのほか、識別力のないもの)です。

拒絶理由に該当する理由としては、「「ゆっくり実況」の文字は、「ゆっくりしていってね!!!」や「ゆっくり」と称されるイラストや、日本語音声合成ソフトから生成された音声が用いられている、ゲーム等の様子を実況する動画」を表すものとして広く使用されており、多数の者により動画が作成・配信されている」実情が記載されています。(拒絶理由通知より抜粋:商願2022-058346他)

炎上が起きれば、誹謗中傷が集中する他に、企業・商品イメージの低下が避けられません。
なお、「アマビエ」や「ゆっくり茶番劇」の拒絶査定を考えると、流行りもの等の先取り的な商標出願は、流行った時点ですでに多くの人が使用をし、それゆえ識別力を失っているため、仮に出願をしたとしても、登録がされる見込みは非常に少ないと思います。

知財教育のお困りごとはありませんか? 知財教育の重要性

自社の強みを知的財産権として保護、活用していくためには、知財部門だけではなでなく、研究開発部門、経営層においても、知財の重要性を認識する必要があります。つまり、三位一体の経営の実現のためには、全社員が適切な知財に関する知識を習得することが重要となってきます。

部門ごとの知財教育の必要性

知財部門
知的財産創出支援、権利化、他社の動向調査、ライセンス契約など知財戦略を立案
研究開発部門
発明の最前線、自らが開発した技術が将来の事業に結びつく新たな技術開発のためには先行技術調査は不可欠
営業・マーケティング部門
自社の強み(技術)を営業先でアピール。新たなニーズを聞き入れ研究開発部門へ連携
経営層
経営戦略、事業戦略に知財をどう活用すべきかを検討、実施

弊所では、企業様ごとのご要望に応じた研修を提供しております。知財の講義は難しい内容も多いですが、図や表を使って分かりやすい解説を心がけています。お気軽にお問合せください。

<研修の一例>

  • 知的財産制度の概要
  • J-PlatPat を使用した調査実務
  • 効率的な特許明細書の読み方
  • 権利範囲の解釈の仕方
  • 拒絶理由通知の対応の仕方
  • 商標の類否判断
  • ネーミング・ブランド戦略

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