Newsletter 2023年8月号

Newsletter 2023年8月号PDFで見る

ご挨拶
- message -

まだまだ暑い日が続きますが、8月も半ばを過ぎ、猛暑もあとわずかです。皆様におかれましては、実り多き秋を迎えられますようお祈りしております。

さて、今月号のニュースレターのトピックスですが、「生成AIと知財の在り方」、「開放特許のビジネスマッチング」、「「2023特許・情報フェア&コンファレンス」に出展のお知らせ」についてです。

生成AIと知財の在り方

ChatGPTの出現で一躍話題となった生成AIですが、人間が作成したものと変わらない高精度なコンテンツをAIが創作できるまでになりました。また、研究開発の分野においても、課題設定さえできれば、技術的な知見がない者であっても、AIが解決手段を導き出し、発明を生み出すことが可能になります。
AI技術が日々進化する中、日本政府は、今年6月に決定した「知的財産推進計画2023」において、知財戦略の重点10政策の1つとして、「急速に発展する生成AI時代における知財の在り方」を課題にあげ、「「AI技術の活用促進」と「知的財産の創造インセンティブの維持」の双方に配慮し、著作権侵害などの具体的リスクへの対応をはじめ、必要な方策を検討する」※1 ことを表明しました。

急速に発展する生成AI時代における知財の在り方

(1)生成AIと著作権
生成AIと著作権との関係は、「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」に分けて考える必要があります。また、AI生成物が著作物に当たるかも分けて考えます。
(1)生成AIと著作権
図引用元:文化庁著作権課 「令和5年度 著作権セミナー AIと著作権」令和5年6月
AIと著作権(p28)

★AI開発・学習段階
この段階における著作物の利用については、AI開発のための情報解析のように、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為は、原則として著作権者の許諾なく行うことができます。享受を目的とする場合は、許諾が必要です。

参考条文:著作権法第30条の4
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させ  ることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 (略)
二 情報解析 ((略))の用に供する場合
三 (略)

なお、自己の著作物を学習されたくない、学習する場合は何らかの補償をして欲しいと著作者が考えていたとしても、開発している事業者が学習内容を開示しない限り、誰も知り得ません。AI技術の発展と著作者の権利保護の双方に留意した方策が必要となります。この点については、事業者に開示要請をすることで検討されています。

★生成・利用段階
著作権侵害か否かの判断は、通常の侵害判断と同様に扱われます。つまり、AI生成物と既存の著作物との間に「類似性」又は「依拠性」が認められる場合には、そのようなAI生成物を利用する行為は、著作権侵害となります。
なお、私的使用のための生成(複製)(著作権法第30条第1項)、授業目的の複製(同法第35条)等は、権利制限規定に当たり、著作権者の許諾なく行うことが可能です。

★AI生成物は著作物と認められるか
著作権法では、著作物は「「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条1項1号)するものと定義しています。
AIが自律的に生成したものは、著作物とは認められず、著作権は発生しないとする説が優勢です。一方、人間が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したと認められるときは、AI利用者が著作者となると考えられます。
AIが「道具」であったか否かの判断は、AI利用者(人間)に「創作意図」があったか、及び、当該人間が「創作的寄与」と認められる行為を行ったか、が考慮されます。どのような行為が「創作的寄与」と認められるかについては、個々の事例に応じて判断することになりますが、生成のためにAIを使用する一連の過程を総合的に評価する必要があると考えられます。

整理すべき論点 <知的財産推進計画2023(概要)より転写※2>

  • AI(学習済みモデル)を作成するために著作物を利用する際の、著作権法第30条の4ただし書に定める「著作権者の利益を不当に害する場合」についての考え方
  • AI生成物が著作物と認められるための利用者の創作的寄与に関する考え方
  • 学習用データとして用いられた著作物と類似するAI生成物が利用される場合の著作権侵害に関する考え方

(2)AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方
これまで、AIは人間の創作を補助するものであり、発明の創作過程、①課題設定、②解決手段候補選択、③実効性評価のいずれかに人間が(創作的に)関与していれば、その人間による創作であると評価する考え方が示されていました。しかし、今日では、課題設定だけを人間が行い、その後のプロセスをAI等を用いて発明が完成される事態が生じ得ます。
AI を利活用した創作において、人間の関与がどの程度あるべきか、AI の利活用が創作過程の各段階に与える影響等を考慮した進歩性、記載要件の判断がどうあるべきかを含め、特許法の目的である産業の発達への寄与という趣旨に立ち返って再検討される必要があります。 

今後の課題 <知的財産推進計画2023 工程表より転写※3>

  • 創作過程におけるAIの利活用の拡大を見据え、進歩性等の特許審査実務上の課題やAIによる自律的な発明の取扱いに関する課題について諸外国の状況も踏まえて整理・検討する。
  • これまで以上に幅広い分野において、創作過程におけるAIの利活用の拡大が見込まれることを踏まえ、AI関連発明の特許審査事例を拡充し、公表する。また、AI関連発明の効率的かつ高品質な審査を実現するため、AI審査支援チームを強化する。

また、著作物と同様に、AI が自律的に創作した場合の取扱いについても、諸外国における取扱いの状況も踏まえて整理しておく必要があります。

引用/参照元:
※1 知的財産戦略本部会合 議事要旨 日時:令和5年6月9日(金)9:35~10:05 場所:官邸2階大ホール
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/230609/gijiyousi.pdf(p10)
※2 知的財産戦略本部「知的財産推進計画2023(概要)~多様なプレイヤーが世の中の知的財産の利用価値を最大限に引き出す社会に向けて~」 2023年6月 
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku2023_gaiyou.pdf(p3)
※3 知的財産戦略本部「知的財産推進計画2023~多様なプレイヤーが世の中の知的財産の利用価値を最大限に引き出す社会に向けて~」 2023年6月9日 工程表
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku_kouteihyo2023.pdf
文化庁著作権課「令和5年度著作権セミナー AIと著作権」令和5年6月
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf

開放特許のビジネスマッチング

立ったまま眠る仮眠ボックスがインターネット上のニュースで話題になっています。「giraffenap(ジラフナップ)」※という商品で、北海道旭川市に本社をおく広葉樹合板株式会社が株式支社イトーキが所有する開放特許を利用して開発しました。写真は、広葉樹合板株式会社のホームページ「プレスリリース」から引用したものです。
「たった20分の短時間でリフレッシュし、疲労回復やストレス軽減、記憶力や集中力の回復、創造力の向上などパフォーマンス向上に役立ちます。新たな休憩の在り方としてオフィス等で立ったまま仮眠できる空間を提供し、従業員の健康増進やパフォーマンス向上に貢献します。」※1
(※広葉樹合板(株)の登録商標です。登録第6687949号」)

giraffenap(ジラフナップ)当該ライセンス契約は、株式会社北洋銀行が主催する「知財ビジネスマッチング」で成立しました。
ライセンス契約を締結したイトーキの特許※2
・特願2018-238773(特許7273496号)
・発明の名称:「人体収納用構造体及び睡眠用筐体」

開放特許とは

自身が権利者となっている特許について、第三者へ実施許諾(ライセンス)
又は、譲渡をするために開放することをいいます。"開放"という名前がついて
いますが、無償ではなく、ライセンス料や、譲渡の場合には対価が発生します。

開放特許を利用するメリット

権利者側

  • ライセンス収入や譲渡金を得られる
  • 開放することで企業のイメージアップになる

利用者側

  • 研究開発の時間や費用を削減できる(資金力や技術不足により研究開発に限界がある場合にも、第三者が開発した技術を利用できる)
  • 特許権が付与された技術を利用していることで製品に付加価値がつく
  • 大企業(有名企業)とコラボすることで製品に付加価値がつく

大企業を中心に、特許を取得していても利用をしていない、いわゆる休眠特許が数多く存在しています。以下の表は、特許庁が毎年発行している「特許行政年次報告書 2022年度」から引用しました。特許権取得件数のうち、半分以上が未利用もしくは防衛目的で所有されています。

特許行政年次報告書 2022年度
表引用元:特許庁 「特許行政年次報告書 2022年版」
特許行政年次報告書 2022年版(p45)

政府は、「大企業や大学に蓄積されている知財の見える化を進めるとともに、これを事業化主体に効果的にマッチングできる仕組みを整備することが必要である」、「ライセンス意思のある知財が見える化していることが効果的であり、権利者に利用許諾を促すようなインセンティブの在り方を検討する必要がある」と課題を指摘しています。※3
開放特許の情報は、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が無料で開放特許情報データーベースを公開しています。ただし、開放特許を利用するには、特許権者と契約をする必要があります。
契約については、弊所にご相談ください。
INPIT開放特許情報データベース

引用元:
※1 広葉樹合板株式会社「プレスリリース」2023.08.01
https://g-nap.com/news/notice-of-press-release-20230801/ 最終閲覧日:2023.8.18
※2 株式会社北洋銀行「NEWS RELEASE」2022年7月14日
https://www.hokuyobank.co.jp/announcement/pdf/20220714_073372.pdf
※3 知的財産戦略本部「知的財産推進計画2023~多様なプレイヤーが世の中の知的財産の利用価値を最大限に引き出す社会に向けて~」 2023年6月9日 
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku_kouteihyo2023.pdf(p29)

「2023特許・情報フェア&コンファレンス」に出展のお知らせ

弊所は、今年も「2023特許・情報フェア&コンファレンス」に出展いたします。
今年は、東京ビッグサイトで開催されます。是非ご来場のうえ、弊所ブースまでお立ち寄りください。

開催日時2023年9月13日(水)~15日(金) 10:00~17:00
会場東京ビッグサイト 東6ホール(〒135-0063 東京都江東区有明3-11-1)
主催一般社団法人発明推進協会 一般財団法人日本特許情報機構 産経新聞社
後援経済産業省 特許庁 独立行政法人工業所有権情報・研修館 日本商工会議所 日本弁理士会
一般社団法人日本知的財産協会 一般財団法人知的財産研究教育財団 日本ライセンス協会
入場料無料(登録制)

詳細は、「2023特許・情報フェア&コンファレンス」のホームページをご確認ください。
https://pifc.jp/2023/

来場事前登録

Menu