Newsletter 2023年9月号

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ご挨拶
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涼しさを感じる季節となりましたが、皆様におかれましては、爽やかな秋を満喫されますことをお祈り申し上げます。

さて、今月号のニュースレターのトピックスですが、「令和6年度経済産業政策の重点(案)-3つの好循環の創出へ-」、「仮想空間における商標の保護と課題」、「生塩 智邦弁理士加入のお知らせ」、「「2023特許・情報フェア&コンファレンス」来場御礼」についてです。

令和6年度経済産業政策の重点(案)-3つの好循環の創出へ-

2023年8月4日、産業構造審議会の総会が開催され、来年度の経済産業政策の重点(案)が発表されました。
国内投資を促進させ、イノベーションを起こすことで、国内投資・イノベーション・所得向上の好循環を創出し、社会課題の解決と経済成長の両立を実現させます。

3つの好循環(国内投資、イノベーション、所得向上)に向けた主要施策

イノベーション循環の促進については、「スタートアップ投資額を2023年度から2027年度までの5年間で約10倍にする、研究開発投資額について官民合わせた総額を2021年度から2025年度までの5年間で約120兆円にする、こと等を通じて、イノベーションの好循環を拡大し、国際標準の戦略的な形成・活用を図りつつ、世界最先端の研究開発を進めることで、経済成長・環境対策を同時達成する」※1ことを目標に掲げています。

主な関連施策 ※1

  • スタートアップ支援
  • ディープテック・スタートアップの創出・育成
  • 重点分野への研究開発推進・支援強化
  • 日本型標準加速化モデルの実現
  • 産学官連携の推進・知的資本への投資推進
  • 3独法(産総研、NEDO、NITE)の効率的かつ効果的な運営

参照/引用元:
表:経済産業省「経済産業政策の新機軸 第2次中間整理について」資料1 2023年8月 p7
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sokai/pdf/032_01_00.pdf
※1 経済産業省 「経済産業省の新たな政策評価について(全体版)」2023年8月 p11-13
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sokai/pdf/032_s03_00.pdf

メタバース(仮想空間)における商標の保護と課題

メタバースとは、インターネット上に作られた仮想空間のこと指し、自分自身の分身であるアバターを利用して他者と交流したり、様々なサービスを楽しむことができます。近年、この仮想空間のビジネス利用が広がりつつあります。
現実社会同様、メタバースにおいて、自身のブランドを守ることは極めて重要であり、知的財産権の問題は避けては通れません。2022年3月公開のWIPOマガジン「メタバースにおける商標」では、例えば、ナイキ (Nike) 、コンバース (Converse)をはじめ、 「ファッションや化粧品、スポーツ、エンターテインメント業界でも、バーチャルな商品・サービスの提供に関連して使用する商標を出願」していることが書かれています。※1 

参考までに、「Nike」、「Converse」両商標の直近の登録をJ-Plat Patで確認してみました。確かに、「仮想商品」、「仮想空間」/「仮想世界」で使用する等の文言が指定商品・役務に入っていることが分かります。
下記の商標画像及び登録情報は、J-PlatPatからの検索結果を転記したものです。
(注:日本における「コンバース」商標は、伊藤忠商事の所有するアパレルブランドの1つとなっています。)

  • Nike
  • Converse

メタバースにおいて商標が使用される指定商品・役務の区分については、第9,35,36,39,41,42類が想定されます。(具体的に出願をご検討されている場合は、弊所までお問合せください。)


上記のような区分指定をする商標出願が増加している背景には、仮想空間のビジネス利用の他に、仮想空間でのブランド名等の無断使用が少なからず影響しています。米国ニューヨーク州では、エルメスの代表ブランドである「バーキン」を模したデータを仮想空間で販売した個人に対して、商標権侵害を認めた事案があります。※2

こうしたメタバースで使用する商品・役務に関する商標審査の指針に関し、韓国においては「仮想かばん」「仮想靴」などの「仮想○〇」などの仮想商品名称を認める運用が開始されています(2022年7月14日施行)。
また、欧州では、連合商標(EUTM)の審査ガイドライン2023年版が、2023年3月31日に施行され、同ガイドラインでは、主にEUIPOによる非代替性トークン(NFT)、仮想商品、仮想サービスの分類方法について記載されています。

現実空間の商標権は仮想空間の対応する商品等にも効力が及ぶのか

まず、登録商標と同一又は類似の商標を、第三者が、その指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務について業として使用する行為は、当該使用行為が商品・役務の出所を表示する機能を果たさない態様のもの等でない限り、商標侵害となります。(商標法第25条、第37条1号)
ここでいう商品の類似とは、「それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞があると認められる関係にあるか」によって判断されます。※3
しかしながら、現状では、現実空間の商品(例えば、衣服など)の製造・販売を行う営業主が、そのバーチャル版の商品(例えば、アバターの衣服など)の提供等も行っているケースは限定的であり、現実空間の商品と仮想空間の商品との間に類似性は認められず、商標権侵害が成立しない場合が多いものと想定されます。※3
もっとも、現実空間の衣服のブランドが著名である場合、仮想空間上で同一の衣服のブランドが第三者によって使用される場合にはブランドの希釈化が行われる可能性があるという見方もできます。また、衣服を提供する営業主が、バーチャル衣服にも参入する事例が増加すると、商品の類似性に対する見解が変化することも考えられないとは言えません。

仮想空間でのブランド名等無断使用への対抗策

第三者の無断使用を避けるため、例えば、これまで「被服」等について登録のあった商標を「画像ファイル」、「コンピュータープログラム」等についても追加で出願することが考えられます。ただし、これが仮想空間内での他人による自社商標の冒用への対抗策として法的に有効か否かについては、統一的な見解は存在せず、今後の司法判断が待たれます。※2
  
また、このような対抗策を行ったとしても、商標権者が現実空間の商品についてのみ商標を使用していた場合、仮想空間の商品に対しては、不使用取消審判により権利が取り消される可能性があります。※3

この他、仮想空間では、現実世界の国境が無く、世界中の人と交流することができるゆえに、どの国の法律が適用されるか、いわゆる属地主義の問題もあります。

仮想空間における様々な問題は、商標法だけでなく、意匠法、不正競争防止法、著作権法など他の法域でも同様に対策が必要です。法改正など更なる今後の議論が望まれます。

引用/参照元:
※1 WIPOマガジン「メタバースにおける商標」2022年3月 最終閲覧日:2023.9.19
https://www.wipo.int/wipo_magazine/ja/2022/01/article_0006.html
※2 根岸克弘 「商標審査の現状」『第30回 日本商標協会年次大会 研修テキスト』2023年9月8日 p26
※3 メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな 法的課題への対応に関する官民連携会議「メタバース上のコンテンツ等をめぐる 新たな法的課題等に関する論点の整理」 2023年5月 p14
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/metaverse/pdf/ronten_seiri.pdf

生塩 智邦弁理士加入のお知らせ

2023年9月1日より、生塩 智邦弁理士を所長代理に迎えました。

生塩智邦弁理士は、甲南大学理学部で応用物理学科を卒業し、鐘紡株式会社(現クラシエホールディングス株式会社)に入社後、カネボウ電子株式会社(半導体後工程生産会社)の立ち上げメンバーとなり、半導体技術者として勤務しました。
その後、本社知的財産部に異動となり、日用品、食品及び漢方薬の特許や意匠の権利化を担当し、弁理士資格を取得し、特許、意匠、商標、著作権、国内外の係争等の経験を積みました。
2018年から知的財産権センター長として、知財全般の管理業務を担当しました。

生塩 智邦弁理士経歴
鐘紡株式会社(現クラシエホールディングス株式会社)
 カネボウ電子株式会社(半導体後工程生産会社)
 クラシエホールディングス株式会社 知的財産権センター長

学歴
甲南大学理学部応用物理学科卒業 

生塩弁理士を迎えたことを契機に、これまで以上に充実したサービスを皆様にご提供できるよう、
事務所一同努めてまいります。

「特許・情報フェア&コンファレンス」来場御礼

2023年9月13日~15日、「第32回 2023特許・情報フェア&コンファレンス」が開催されました。これまでは、北の丸公園の科学技術館で開催されておりましたが、今年は規模が拡大され、東京ビックサイトにて行われました。また、特許・情報フェアを含み、5つの展示会が同時開催となったため、3日間の来場者数が12,886名※にもなり、例年以上に多くの方々がブース間を行き交っておりました。
お取引のあるお客様をはじめ、新規のご相談など、弊所のブースにも沢山の皆様にお越し頂き、3日があっという間に過ぎるほど充実した時間となりました。ご来場頂きました皆様には、誠に感謝申し上げます。
 
引き続き、クライアントの皆様に寄り添ったサービスを提供してまいりますので、知財に関するご依頼やご相談はお気軽にご連絡ください。

「特許・情報フェア&コンファレンス」

<来場者数 特許・情報フェア&コンファレンス公式HPより抜粋※>
9/13 (水) 3,136名
9/14(木)  4,704名
9/15(金) 5,046名  累計12,886名
(参考:2022年の来場登録者数 9,411名) 

※「特許・情報フェア&コンファレンス」公式ホームページ
https://pifc.jp/

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